絶望的な気持ち

【※フィクションです】

もうどうにもならないような憤りでこれを書いている。

働いている会社の部長クラス同士が話しているのを傍らで聞いて

吐き気がしてそのまま飛び出し、エクセルシオールでこれを書いている。

ひとまず、気持ちを鎮めて、きょう一日乗り切るには、

なんか吐き出すしかない。

それも人が見ようと思えば見えるところで吐き出したい。

思いついたのがブログだった。

ブログなんかやっていないが、あそこならなんとなく天下の往来で

発狂したのと同じ効果が得られそうだ。

まあ、だれもみないだろうが、自分しか見ないワードファイルを作るよりかは

気持ちの問題でいくらかましだ。

エクセルシオールの電源のついている席に座ると、はてなのアカウントを作り

そのまま書き出した。

 

日本有数の売上高の電機企業に勤めている。

今話題のTやMではない残りのどれかだ。

もうそれはそれは、老害の天下である。

今の会社でしか働いたことはないが、「日本はどんな国ですか?」と

海外の人に聞かれたら、「Rogai's county」と答える。

老害主権の老害による統治が行われている老害主義国家である。

 

僕が入社したとき配属されたのは、あるデジタルデバイスの事業本部だった。

確固たるビジネスモデルが既に構築されていて、同じことをやっていれば

同じような結果が得られ、どの変数をいじっても結果が変わらないという

なんというか、社畜の環境としては最高だったと思う。

 

ある日、バカが本部長になった。

彼は「どの変数をいじっても結果が変わらない」ということに不満を持っていた。

自分の「ウデ」を見せたいのだ。

バカだ。

「これからはクラウドの時代だ」と言い出した。

たくさんのキャッシュを彼の言う「クラウド」に費やした。

「セキュリティも大事だ」とも言った。

さらに多くのキャッシュが「セキュリティ」に費やされた。

「差別化できるデバイスも作りたい」

既にコモディティ化されていた僕らの市場で

「差別化された」デバイスを作るために多くの人とお金が費やされた。

経営が傾いた。

それらの投資はリターンを生まず、一台一台へのコストとして重くのしかかった。

「まだ足りないのだ」彼は言った。

「グローバル展開をすればスケーラビリティが得られる」

僕は彼の仮説を裏付けるためのファクトを探す仕事をさせられた。

結果わかったことは、僕らの商売はモジュール化されすぎていて

スケーラビリティなどないことだった。

調査結果は握りつぶされ、できもしないグローバル展開に突入した。

たくさんの人がグローバル展開の投入された。

中国では店の棚を確保するために、僕らでは負担しきれないような額の

リベートを小売店に支払い、欧米では全くブランド力のない僕らの製品を

中国で製造している製品と同じ金額で売らされ、

どんどん疲弊していった。

グローバル展開に異議を唱えた重役は子会社へ飛ばされた。

 

この後、僕らは社内の別のデバイスの事業本部の占領下におかれることになった。

当時、そのデバイスの事業はなかなかの利益を上げていて、

まるでGHQのように僕らの前に現れ、僕らの新しいボスは

僕らをまるでマッカーサーのように睥睨した。

「お前らはマーケティングがなっていない」彼は言った。

 

まあ、それはそうだろうと思った。

コンシューマ製品に関しては僕らは販売店の言いなりで、

自分たちの考えやコンセプトを貫くことはできていなかった。

僕は僕で「こんな風にマーケティングができたらいいのに」と理想を持っていた。

 

「これからはライフスタイル・クラスタ分析によるマーケティングを行う」

彼はいわゆるセグメンテーション・マップを僕らに見せた。

僕は驚いた。

なぜなら、当時僕が通っていた夜間MBAで2か月前に

「悪いセグメンテーションの例」として紹介されたマップが

そのまま書かれていたからだ。

似たようなマップではない。本当に全く同じものが紙の上に書かれていた。

その「クラスタマップ」は僕らが作ったものではなく、

彼らの製品のプラットフォーマーが作ったもので、

そのプラットフォーマーはその後、勢いを落としていくことになるのだった。

クラスタリングという手法についても、

彼らは正しい知識をまったくもっていなかった。

悪い冗談だと思った。

 

ついでに、なぜその手法がまずいのかと言うと、

セグメンテーションマップは大抵2軸の4象限であらわされることが多いのだが、

ターゲットセグメントは、ターゲッティングがしやすいように、

1象限の中にそのターゲットセグメントだけ置かれるように作られる。

特徴を際立たせるマップを作るのだ。

ところが、彼らのクラスタマップは1象限の中に2個も3個もセグメントがおかれ、

重なり合い、そのマップでは何がセグメントの特徴だかわからない。

しかも、10個のクラスタに切られていて、一つ一つが小さすぎ、

結局複数のセグメントをターゲットにするしかない。

複数のセグメントをターゲットにすると、当然ながらポジショニングがぼやける。

まあ、要するに機能しないのである。

 

彼らが当時、なぜ調子が良かったのか。

被植民地となって理由がわかった。

単にプラットフォーマーの寵愛を受けていたからだ。

5Fsで言うと、「販売業者が消費者の意思決定を大きく左右する」という状態で

会社間同士のしがらみで、僕らの会社の製品を厚遇してくれていたのだ。

つまり、プラットフォーマーから見放されると、途端に事業が立ち行かなくなる。

マーケティングもへったくれもない。

 

この時、本当に辟易したのが、彼らのGHQづらだった。

「劣等国民を教え導いて、本当の民主主義を根付かせる」と言わんばかりに

自信満々にMBAでは失敗例の教材として教えられるセグメントマップを

押し付けてくる。

それもクラスタ分析の手法そのものは何もわかっていない。

 

2~3年ほどレジスタンスとして戦った。

僕の持っている分析手法、調査手法、時には大学の研究室にデータを持ち込んで、

先生にみてもらいながらデータを作り、彼らの言う「ライフスタイルクラスタ」と

僕らの製品の購買行動は相関がないことを証明した。

ただ、ファクトだけでは彼らは説得されなかったと思う。

軌を一にして、彼らの製品の業績がどんどん落ちていったのだ。

頼みにしていたプラットフォーマー自身の業績が落ち、

僕らのことを守ってくれなくなった。

僕が自分の持てるすべての力を出して、「ライフスタイルクラスタ」とやらを

退けたとき、彼らのプロダクトは巨額の赤字を出すようになっていた。

彼らは自信を喪失していたのだ。

 

僕らは3つに分かれた。

元々僕がいたプロダクトは会社の外に出され、

僕らを支配しようとした事業もやはり外に出された。

数年前にバカが始めたクラウドやらセキュリティやらをやめると

人が余ったので、余った人たちはそのまま会社に残り、新しい事業を始めた。

僕は残ってその新しい事業を始めた。

 

事業は最初からつまずいた。

ビジネスモデルを考えていなかったからだ。

僕らの会社は営業を複数の事業本部で共有している。

物さえ作れば売るためのチャネルが確保されている。

これは便利だが、裏を返すと、ビジネスモデルの「"何を"”誰に""どのように"売るか?」

の内、"何を"さえ考えれば、商売が始まってしまうということだ。

だから、ビジネスモデルなんて面倒なことを考えなくても、

形式的には商売ができてしまう。

なので、ビジネスモデルを考えるという習慣がない。

僕らは今まで作っていたものを売るのと同じ感覚で、新しいものを作り始めた。

これがひどかった。こんな商売になった。

法人相手の商売で、営業がお客さんに押しかけて売りに行くのだが、

成約率が0.5%だ。

当然そんな効率の悪い商売なんて、営業さんは本気で取り合ってくれない。

事業本部の人間が、売りに行くことになる。

売りに行くということは、その分の人件費やら、出張旅費やらがかかる。

0.5%ということは、1件売れたら199件分のコストを回収しなければならない。

まあ、当然そうはならない。

ということで、結果的に、100円売れると、

140円損するような商売が出来上がった。

半年後、僕らはまた新しい連中の植民地になった。

 

今度は僕は、「100円売ると140円損をする商売」の

ビジネスモデルの不合理さを訴え、ビジネスモデルレベルで変えないと

どうしようもないと、だれがどう考えても正論を唱えた。

前に居並ぶ部長クラスの連中は言い放った。

「今のビジネスが立ち行かないなんて、お前、問題発言だぞ!」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

次に頭に浮かんだのはドラえもんの「ぞうとおじさん」という話だった。

未来から来たのび太ドラえもんが「戦争なら大丈夫。すぐ終わります」

「日本が負けるの」と憲兵風の人に言うと「な、なにを言うか!」と怒られる。

「もはや戦後ではない」などと誰が言った。

僕はその場をあきらめ、現状の否定からではなく、

いきなり具体的な代替案から入った方がいいなと考えを改め、

新しく作戦を練っていた矢先、隣の方で聞こえてきた。

占領軍の部長が非占領軍の部長に偉そうに講釈を垂れていた。

アーリーアダプタ」「イノベーター」「キャズム」「リーンスタートアップ

吐き気がした。

占領されるたびに、占領する側が、MARCHの意識高い系学部生のように

頭のよさそうな、でも、本質を決して突かない経営用語を使って、感化しようとする。

でも、はっきり言って、学部生のお遊びレベルだ。

実は、今回は占領軍も赤字なのだ。

また、間違った思い込みに基づいた、意識高い系の講釈が始まり、

終焉の時まで、思い込みを手放さない。

ロジャースの話が本質ではないと気付くのに、きっと2年かかるだろう。

もう疲れた。

僕はオフィスを抜けると、エクセルシオールはてなのアカウントを作り、

これを書き始めた。

 

僕はこのままいくと、数か月後には海外に赴任し、

その1年後に戻ってきて、幹部社員になる。

たぶん、世間的には悪くない話だ。

だが、今の給与水準が保たれてるとは思えない。

 

それに、入社して、徒労感しか味わっていない。

きっと、今後も性懲りもなく、新しい占領軍に統治され、

どうでもいい説教をされ、そうこうしているうちに、会社そのものが死に体になる。

日本の古い大手企業、どこもこんな感じなんじゃないだろうか。

変わるんだろうか。

 

本当に、今の日本を悪くしているのは、大手企業の老害による無能経営だと思う。

そのへんの高校生が代わりに経営しても、多分、何も変わらないと思う。

いま、本当に絶望的な気持ちだ。

 

【※フィクションです】